化学物質過敏症について考える(1) 

 CS支援センター会報132号掲載分

 私が化学物質過敏症(以下CS)になってから、整体だけではなく療術というもう少し広い範囲で勉強をして来ました。そして、CS専門の整体をやってきて私なりに少しずつ分かってきた事を書かせて頂きます。それは今まで当たり前の様にしてきた対処方法とは逆と捉えられるかも知れません。全ての人に受け入られるとも考えていません。しかし、何人かの人達がCSから抜け出す手掛かりになればと思い書かせて頂きました。苦情は一切受け付けませんのでよろしくお願いします。
一つの事柄に付いて複数の見解が書かれている所も有ります。少し分かりづらいと思いますがご了承ください。

 CSと診断されて化学物質を排除するために色々やってきたけど良くならない。どうしていいのか分からなくなってしまいました。というご相談を良く受けてきました。CSの発症段階の多様性、CSと診断されるまでに他の病気と診断されていたり、それが誤診なのかどうなのか患者側が決めてしまっている曖昧さ。基礎疾患があり複合的に症状が出ていたり、CSと診断された後も身体に合わない対処法で、より悪化させてしまうなど問題の多い疾患です。

目的は何ですか?

 今一生懸命やっている事はCS患者として化学物質を排除しながら生活する為ですか?それとも少しでも化学物質を気にしないで生活できる様にする為ですか?これをきちんと分けて考えて生活していますか?いわゆる化学物質を避ける事自体は悪い事ではないと思います。CSになってしまって混乱している時に、まず化学物質を避けて落ち着くことは重要でしょう。CSではなくても日常生活で使う物を上手に選択して化学物質を避けながら生活している方は沢山います。
 でも現代の社会で化学物質を完璧に避けるのは容易な事ではありません。闇雲に化学物質(その定義すら曖昧)を避けることは、一生CS患者として窮屈な生活をすることです。避ける事ばかりに執着して、情報に操られてストレスを溜め込んで体調を悪くしてしまう人が多いのではないでしょうか。化学物質恐怖症になっていませんか?
 私も無農薬野菜、合成洗剤、柔軟剤を止めて、毒が溜まっていると言われデトックス?の為に運動したり、仕事に戻ろうとして必死に治そうとしました。でも当時は夢中でやっていて気が付かなかったのですが、治るどころか余計悪くなって行きました。避けなければならないものが多すぎます。次から次へと出て来ました。
 元々痩せていたのに2年位経って5Kgほど体重が減って体力も無くなり、ガリガリになってしまいました。そして治らないのに続けても意味がないと気がついたのです。それ自体がストレスになっているという事も。自分の体調変化を診ながら徐々に元に戻して行きました。そうすると悪くなるどころか楽になって行きました。
 自分が反応しないものまで避ける必要は無かったのです。もちろん明らかに反応してしまう物や嫌なものは今でも避けています。それ以外の所謂化学物質を手当たり次第に避けることにどれ程の効果が有るのでしょうか?
 極端な食事制限までして、まともに食事が出来なくなって体力がなくなっているのに、化学物質を避けることばかりに気を使っていたらどんな人でもストレスでおかしくなってしまいます。病名(症例名)が化学物質過敏症だからと言って全ての化学物質を避けるなんて無意味です。病態が先に有って、医師が後から診断して病名を付けただけです。
 無闇に化学物質を排除すればCSが治るのでしょうか。排除する事を目的にするより今の生活の向上を目指しませんか。
原因は化学物質だけですか
 療術の学校の講師の方に化学物質過敏症について伺った事が有ります。殆どの方はその症例名について知りませんでした。でもこんな事を言われた事がありました。『なんであなた(私の事)だけが化学物質ナントカって言う病気になったのか良く考えて見なさい。』その時思い出したのです。インクの強烈な刺激臭と咳や胸の痛み、そして仕事のストレス。もう辛くて限界に来ていたのに無理をして仕事を続けて、心も身体も壊れて行った時の事を。CSを発症する前から心身共に弱っていたのです。
 CSと診断された時にどんな生活をしていたでしょうか。どういう経緯で自分が病気になって行ったか落ち着いて良く思い出して下さい。何か辛い思いをしていませんでしたか?その時の事を無意識のうちに隠そうとしていませんか?
 良くなったり悪くなったりを繰り返す人がいます。それは、原因を認識してなく、その時と同じ事を繰り返している可能性が有ります。


心も身体も大切に 

 CSの症状ははっきり感じるので絶対に心因性では無いという話しを良く聞きます。でもはっきり感じるから心因性ではないとは言えません。ストレスでアトピーや胃潰瘍になったとか、歩けなくなるような腰痛の原因がストレスだったり。逆に交通事故に遭ってから車に乗ると吐き気がしたり動悸がしたりするようになったり。
 CSに限らず心因的配慮が必要な病気は沢山有ります、というより殆どの病気が心因的配慮が必要ではないでしょうか。ここでお伝えしたいのはCSが心因的な病気と決めつけているのでは有りません。CSの症状は身体的反応なのか心因的反応なのか分からない事が多く、お互いは影響し合うものです。分けて考える事が難しく無意味なのです。
 仕事や日常生活で何か嫌な事が有っても殆どの人は我慢します。嫌な事が有ってもいちいち逃げていたら何も出来ません。ストレスなんて大丈夫と自分に言い聞かせるのが習慣になって行きます。ストレスを我慢するという習慣が出来てしまっているので気が付かない事が多いのです。良かれと思ってやっている脱化学物質で受けるストレスも病態を悪化させているのです。身体と一緒に心ももっと大切にして下さい。
 残念ながら心因性ならば簡単にすぐ治るとは言えません。先ずは無駄にストレスになっている事をやめることから始めて下さい。ストレスを感じないという人もいます。でも感じなくてもストレスは身体でも受けています。

情報に操られない

 CSと診断された時、図書館に行って検索機で”化学物質過敏症”を検索して本を何冊か借りて読んだことを覚えています。でもそこに書いてあったのは化学物質は危険だという事ばかり。食品に限らず洗剤、農薬、衣服など、ありとあらゆるものが危険だと書いて有ります。『どうしよう。大変な病気になってしまった。』と不安になったものです。でも落ち着いて読むと、そこには発癌性や残留農薬の恐ろしさは書いてあるのに肝心なCSとの科学的な関連性は書いて有りませんでした。
 今はネットで情報を検索する事も多いと思います。例えば“柔軟剤 毒性”でネガティブ検索すれば危険、苦しんでいる等の文言の目立つホームページが検索されます。
 次は“柔軟剤 大好き”で検索すれば、#柔軟剤大好き、使うだけでモテ度アップ、おすすめ人気ランキング等の文言の目立つホームページが検索されます。
 CS患者はこの様な肯定的な語句で検索する人は殆どいないと思います。検索する語句を選ぶ時点で既にその答えの方向性は決まっているのです。
 本も同じです。『実は危険!危ない!』など、刺激的な文言の題名にしなければ売れません。『柔軟剤大好き』なんていう本は皆さん買わないですよね。
 SNSでネガティブな情報を発信している人もいますが、こういう情報にはもううんざりです。その情報自体はCSとは関係ない研究結果や憶測や販促だったり。
 子供が注射を怖がっている時、あなたは子供に『痛いよー、すごく痛いよー』って言い聞かせて注射させますか?子供はきっと逃げ出すか泣き叫ぶでしょう。もう分かりますよね。
 皆さんもう化学物質の危険性は良くご存知です。これ以上のネガティブな情報は恐怖症になるだけで改善の為には殆ど役に立たないでしょう。
 
 過敏症なのですから過敏にならない方向に少しずつゆっくりと舵を切って行きませんか?

次号に続く…