化学物質過敏症について考える(3)

 クローズドループ現象

 以下抜粋

 西暦2世紀ギリシャの医学者ガレスが「瀉血」( “しゃけつ”血液の一部を抜き取る排毒療法)を広め たとき、水銀療法なども含めたこの種の治療法は、当時の最高の知識をもった学者が、まったくの善意から生み出したものだっ た。

 瀉血は、病弱な患者からさらに体力を奪った。当時の医師 たちがそれに気づかなかった原因は単純だが、根が深い。治療法を一度も検証しなかったのだ。彼らは患者の調子がよくなれば「瀉血で治った!」と信じ、患者が死ねば「よほど重病だったに違いない。奇跡の瀉血でさえ救うことができなかったのだから!」と思い込ん だ。

これこそ典型的な「クローズド・ループ現象」だ。「 クローズド・ループ」「 オープン・ループ」はもともと制御工学で用いられる用語だが、本書では意味が異なる。ここでいう「 クローズド・ループ」とは、失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態を指す。

マシュー・サイド. 失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織 (p.21). 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン. Kindle 版.

 医師達は18世紀末から19世紀に掛けて瀉血によって大勢の患者の命を奪ったそうです。でも当時の医師(患者も)は上記の理由から誰もその治療法が間違っているとは思いませんでした。

化学物質過敏症のクローズドループ現象

 化学物質過敏症で瀉血慮療法の様な危険な治療をする人はいないと思います。でも私は、医師にCSと診断されたときに、オーガニックの野菜等を食べて、なるべく衣食住において化学物質を排除する様に言われました。そしてそれを実践した。始めはそうすれば少しずつ健康になるのだろうと思って実践しましたが、良くなりませんでした。当時はまだ会社で働いていましたし、自宅でも化学物質と接してしまいます。体調が良くならないのはそのせいだと思い、会社に行けなくなり、休職して転地療養施設に入居したりしましたが、結局治らないまま会社を辞めました。

 その期間は3年位でしょうか、発症してCSと診断されて、食べ物、身に付けるもの、自宅内、公共の場へと化学物質排除を続けました。転地療養施設に居たときはCSを殆ど発症しなかったので、良くならないのは化学物質の排除が足らないからだと思い続けていました。退職して更に化学物質排除を加速させて行くべきか、それともなにか違う方法が有るのではないかと考えて療術の学校で学びはじめました。この辺りから私のクローズドループは徐々に解かれていったのかと思います。

 瀉血療法=脱化学物質?

 そもそもここで言う化学物質の定義が曖昧で、医師や患者が勝手になんとなく決めている感じですが、そのまま話しを続けて行きます。

化学物質を排除して改善した人は居ない

 山の中の療養施設に居るとCSの症状は殆ど出ませんでした。これは治ったのでは有りません。自宅に戻るとまた以前と同じ様に発症します。そして思うのです。まだ血を抜くのが足りない、いや、化学物質排除が足らないと。そして次は自分が反応していなかった化学物質まで排除するようになっていきます。

 例えば水。水道水に市販の浄水器をつける→取り切れない化学物質がある→ペットボトルの水を買う→ペットボトルが危ない→遠くまで湧き水を汲みに行く→湧き水には硝酸態窒素が含まれる→逆浸透膜浄水器など高価な浄水器を購入…子どもの頃は水道水を普通に飲めたのに特殊な水しか飲めなくなってしまいます。食べ物や着るものも同じです。極めれば極めるほどクローズドループのループが小さくなって選択の余地が無くなります。これは物凄いストレスで、それが新たに色々な症状を発症させる原因ともなります。

 良いものを食べたり使ったりすることは決して悪い事ではありません。でもそれだけで化学物質過敏症が改善するものでも有りません。

 つづく…